第511章

  彼はグレーのジャージ姿だった。胸元は汗で大きく濡れ、硬そうな短髪にも汗がびっしり。鋭い眼差しだけは、相変わらずだ。

  小林絵里は一瞥しただけで視線を引っ込め、そのままダイニングへ入って食事を始めた。

  坂田和也は、彼女をじっと見つめる。

  昨夜は、ほとんど眠れなかった。

  腕の中にあるのは温かく柔らかな身体。それでも、手を出せない。いったん踏み越えた瞬間、彼女はきっと即座に顔色を変える。

  今の彼女は、翻る速さが本のページより速い。

  連れ戻した以上、段階を踏むしかない。

  いつか必ず——向こうから、抱きついてくる日が来る。

  坂田和也は視線を収めると、無...

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