第514章

「きゃっ!」

  小林絵里が悲鳴を上げ、振り返りざまに駆け出した。

  手にナイフを握っていても、あの男と真正面からやり合う勇気なんてない。奪われでもしたら、今度は自分が人質にされる――そう考えただけで背筋が凍った。

  必死に走る。走りながら助けを求める声が、地下駐車場のコンクリートに反響して、隅々まで跳ね返った。

  背後から追ってくる足音が、心臓の上を踏みつけてくるみたいだった。恐怖で脈が暴れ、喉から飛び出しそうになる。

  絵里はナイフをぎゅっと握り締め、全身を震わせた。

  そのとき――横から人影が飛び出し、追いすがってきた男に体当たりした。

  二人がもつれ合って床...

ログインして続きを読む