第582章

「やだ……っ! やめて! こんなことしないで、坂田和也……! あんたなんか大嫌い……大嫌い!」

 部屋の奥から、夏目夕子の悲鳴が漏れた。耳を刺すような声。そこに詰まっているのが、どれほどの絶望なのか――嫌でも伝わってくる。

 小林絵里は坂田和也へ目を向けた。彼は平然としていた。切れ長の瞳は、終始こちらを捉えたまま。絵里はふっと笑う。

「彼女、あなたを助けたことがあるでしょう。そのせいで片脚まで失った。あの状態を見て……本当に、何とも思わないの?」

 坂田和也の整った鋭い顔に、嘲るような笑みが浮かぶ。

「今日の落ちぶれは自業自得だ」

 彼は絵里の、感情の起伏が薄い横顔を見据えたまま...

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