第630章

小林絵里は、ふわりふわりと浮き沈みしている気がした。宙に投げ出されたみたいに、身体が羽のように軽い。

ぼんやりする。――わたし、どうしちゃったの?

「絵里? 絵里!」

遠くから声が届く。聞き覚えはあるのに、距離がありすぎて、誰の声なのか判然としない。

「小林絵里、起きろ!」

もう一度、声。さっきより近い。

小林絵りの顔から茫然が少しずつ剥がれ落ちる。聞き取れた。坂田和也の声だ。

「やだ、来ないで!」

反射的に頭を抱えて身を縮める。近づかないで。声も聞きたくない。

脳内に、ありとあらゆる出来事が雪崩れ込んできて、痛みのように胸を締めつけた。絵里は堪えきれず、声を上げて泣いた。...

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