第786章

小林絵里はぴたりと表情を止め、自分の手をすっと引き抜いた。

「坂田和也。約束は守ってほしいの」

 坂田和也の瞳に、たちまち失望の色がにじむ。薄い唇はきゅっと一直線に結ばれた。素朴で、それでいてやけに冷たい小林絵里の横顔を見つめながら、どうしても腑に落ちない。

 昨夜はあれほどベッドの上で絡み合い、歯止めなく乱れていたというのに――なぜ今は、こんなにもよそよそしいのか。

 車内の空気は、一気に冷え切って重く沈んだ。二人とも、それ以上は何も言わない。

 小林絵里は昨夜ほとんど眠れていなかった。楓の苑に戻ると、庄司玉輝に休みをもらい、そのままベッドに倒れ込んで眠ろうとする。

 けれど、...

ログインして続きを読む