第857章

小嶋奥さんは体面を崩さぬ笑みを保ったまま、「和也が来たわ」と告げた。

坂田和也は短く返事をし、その視線は小嶋未沙の顔に落ちる。血の気の引いた頬を見て、眉をひそめた。

「未沙、どうした?」

小嶋未沙はぱっと目尻を赤くして、唇をきゅっと結ぶ。それでも必死に平静を装い、

「和也お兄ちゃん、わたし大丈夫……」

「誰かに何かされたのか? 俺でもいいし、おまえの祖父さんにでも話せ。助ける」

小嶋未沙は沈んだ声で「うん……」とだけ応え、すぐに自室へ引き返していった。

坂田和也も小嶋奥さんに挨拶をして、屋敷を後にする。

車に乗り込むなり、彼はシートに深く背を預けた。顔色は氷のように冷たい。

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