第861章

松本桜は不安げに小林絵里を見やった。

「この雰囲気……大丈夫?」

「平気。見つけたら、すぐ出よう」

「だよね」

松本桜はうなずくと、そのままバーの中へ足を踏み入れ、目当ての人物を探し始めた。

人の波の中で誰かを見つけるのは、やはり時間がかかる。

しかも二人は別々に動けない。小林絵里はいま携帯を持っていないのだ。

……

フロアの片隅、奥まったボックス席。

テーブルの酒瓶はあちこちに倒れ、坂田和也はネクタイを乱暴に引きちぎるように緩めた。全身にまとわりつくのは、投げやりな空気と、どこにも行き場のない虚ろさ。

細長い目は血走り、ライトがチカチカと瞬いても、彼のいる場所だけが取り...

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