第87章

彼女の笑顔には、いくばくかの苦渋が滲んでいた。

「坂田和也、私たち一年間も一緒に過ごしてきました。たとえ今のあなたが記憶を取り戻したとしても、この一年の思い出まで消えたわけじゃないでしょう? どうしてわたしのことを信じてくれないのですか?」

どうして彼は、あんなにも疑わしげな眼差しを向けることができるのだろうか。

絵里はいくら考えても、どうしても納得がいかなかった。

和也の胸の奥で、名状しがたい感情がふとつかえた。だが、彼はすぐに口を開いた。

「警察には通報したのか?」

絵里の声も、いくぶんか冷ややかさを帯びた。

「ええ」

和也は眉をひそめたまま、しばらくの沈黙のあとに言った...

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