第二十三章

サマー視点

ミアは鏡の前に立ち、私が貸した深紅の絹のドレスの裾をきゅっと引いた。指先は中に仕込んだシリコンのパッドを何度も直しつづけ、喉がこくりと上下するのが見えた。強く唾を飲みこんでいるのだ。

「サマー、私……舞台の上で吐いちゃいそう」

私はピアノの鍵盤から目を上げない。今週だけでも百回は弾いた気がする冒頭の小節を、指がなぞっていた。「吐かないよ。そう言い切れる理由、わかる?」

「……なんで?」声が小さく縮こまる。

「首から肩のラインが、いま最高にきれいだから。ほんと、白鳥みたい」ようやく鏡の中の彼女に視線を投げた。「それに、冬のコンサート、あんた最高だったじゃない。覚えてる?ロバ...

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