第158章 人として欲張りすぎるな

安藤汐の胸がぱっと弾んだ。――来た。チャンス。

彼女はわざと困ったふりをして首を横に振る。

「この雨じゃ……タクシー、捕まらなさそうですね」

言いながら、視線にほんの少しだけ「頼りなさ」と「期待」を混ぜる。やりすぎない。ちょうどいい塩梅で。

芳丸巡哉はちらりと顔を上げ、しばらく沈黙してから言った。

「待ってろ」

そう告げると、スマホを取り上げてどこかへ電話をかける。

安藤汐の心臓が喉元までせり上がった。

「太田。会社まで迎えに来い。人を一人、乗せる」

声は淡々としていて、感情の起伏が読めない。

太田――?

安藤汐は一瞬、言葉を失った。

芳丸巡哉の専属運転手。送迎するの...

ログインして続きを読む