第44章 物事が順調すぎて少し不気味だ

芳丸巡哉のキーボードを叩く指が、ぴたりと止まった。

彼は顔だけを横に向ける。レンズ越しの黒い瞳は感情を映さず、ただ静かに彼女を見ていた。

白川凰姫はその視線が落ち着かず、目を伏せたまま続ける。

「安心して。期限が来たら、私から出ていく。しがみつかないし、財産の分け前も求めない。あなたに迷惑はかけないから」

ただ伝えたかっただけだ。自分の分をわきまえている、と。自分のものではない場所を、欲張って奪おうなんてしない、と。

芳丸巡哉は眼鏡を外した。名もない火が「かっ」と胸の奥から燃え上がり、熱いはずなのに、背筋の芯から冷えが走る。

白川凰姫を怖がらせたくなくて、感情を呑み込む。だが——...

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