第105章 ブレーキの故障

世界がその瞬間、ぴたりと静まり返ったかのようだった。

小野寺彩音には、窓の外で風が木の葉を揺らす、さらさらという音が聞こえる。

古賀硯司はソファに腰掛け、両肘を膝について、彼女の方へ体を向けていた。その眼差しは深く、彼女には読み取れない感情を宿している。

陽光が窓から差し込み、彼の膝を照らしているが、上半身は依然として影の中に沈んでおり、どこか孤独で寂寥とした雰囲気を纏っていた。

「君は?」

数秒後、男が口を開いた。

「小野寺彩音、生まれてこの方、誰かを好きになったことは? 誰かに心を動かされたことは?」

古賀硯司の問いは簡潔だった。ただ答えが知りたい。そして、答えを知るのが怖い—...

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