第86章 宝物、あなたは考えないで

小野寺彩音にそう指摘され、古賀硯司は顔をしかめた。

小野寺彩音はベッドのヘッドボードに身を寄せ、その美しい杏色の瞳で彼を見つめながら、一切の容赦なく問い詰める。「もともと覚えていないふりをするつもりだったの? それとも、本当に忘れていたの?」

小野寺彩音の言葉は皮肉だった。一度見聞きしたことは決して忘れない古賀硯司の記憶力をもってすれば、覚えていないはずがないからだ。

「彩音、すまない」古賀硯司は身を屈め、小野寺彩音の頬にキスをした。「最高の傷跡消しクリームを用意させる。傷は残させない」

小野寺彩音は顔を背けて避けようとしたが、一歩遅かった。彼女は眉をひそめる。

「どうして私に謝るの...

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