第12章

「新藤鈴奈!」

稲垣征也は椅子に深く腰を下ろしたまま、墨を溶かしたような瞳に危うい光を滲ませる。

「お前、いい加減にしろ。どこまで騒ぐつもりだ」

心が痛みすぎると、人は何も感じられなくなるのかもしれない。

以前なら、稲垣征也の冷たい言葉ひとつで、鈴奈は胸がざわついた。

自分のどこが悪かったのか、どこで機嫌を損ねたのか。考えれば考えるほど、彼の顔色をうかがうようになっていった。

でも今は、もう麻痺している。

むしろ、刃も銃弾も通らないみたいに、平気だった。

新藤鈴奈は、今までになくまっすぐな目で言った。

「わかってるでしょ。私は、離婚を冗談にしたことなんて一度もない」

昔の...

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