第34章

津田真由の目の奥を、ほんの一瞬だけ翳りがよぎった。だがそれもすぐに消え、何事もなかったように口を開く。

「ずいぶん早かったのね。鈴奈さんは大丈夫だったの?」

稲垣征也は病室のほうへちらりと視線をやり、声を潜めた。

「今はベッドから動けない状態なんだ。日織が具合を悪くしたって聞いて、かなり心配しててさ。だから、日織を転院させようかと思ってる。せめて母娘で顔を合わせられるように」

その言葉に、津田真由の笑みがぴたりと固まった。無意識に眉も寄る。

ようやくこの病院の医師たちには手を回し終えたのに、ここで転院なんてされたら、今までの苦労が全部水の泡だ。

そう思いながらも、彼女は表情を整え...

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