第55章

稲垣グループ。

稲垣征也は会議の席で、さっきから眉がぴくぴくと跳ね続けていた。

何度も指で押さえたが治まらない。胸の奥がざわついて、理由のない不安だけが膨らんでいく。

苛立ちが頂点に達したところで、秘書がノックもそこそこに入ってきた。征也の耳元へ顔を寄せ、声を落とす。

「稲垣社長……奥様が階段から転落されました。いま救急の処置室です」

稲垣征也は椅子を弾くように立ち上がった。整った顔に、焦りと苛立ちと、言い表しがたい複雑な色が走る。

「会議はここまでだ。急用ができた」

それだけ言い捨て、踵を返して会議室を出る。秘書が慌てて後を追った。

外にはすでに車が回されていた。乗り込むな...

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