第58章

「なにぼーっとしてるの?」

神園和臣は、新藤鈴奈が入口のほうを見つめたまま固まっているのに気づくと、ひらりと手を上げて目の前で振ってみせた。

目の前いっぱいに迫った端正な顔に、鈴奈はびくりと肩を跳ねる。気まずそうに視線を逸らすと、耳の奥がじんわり熱くなった。

相手が自分の婚約者だと頭ではわかっている。けれど記憶を失った今、この見慣れないほど整った顔を真正面から受け止めるのは、どうにも照れくさい。

和臣は目尻をわずかに吊り上げ、どこか気だるげに口元だけ笑ったまま、瞬きもせず鈴奈を見つめ続ける。

見られれば見られるほど居たたまれなくなり、鈴奈は手を伸ばして彼の顔をぐいっと押しやった。咳...

ログインして続きを読む