第36章 あなたを守りたい

「行かない」

 田中康介の拒絶を聞いて、渡辺美咲は眉をひそめた。声にはあからさまな苛立ちが混じっている。

「じゃあ、どうするつもり? まさかこのままうちに居座る気?」

 田中康介は口を開き、当然のように「そうだ」と言いかけた。だが、喉元まで出かかったその言葉を、結局のみ込む。

 そんな権利が自分にないことくらい、分かっていた。

 もう渡辺美咲とは離婚するのだ。彼女の家に居座る資格など、あるはずがない。

 まして、彼女に何かを求める資格など――なおさら。

 それでも、帰りたくなかった。

 なぜなのか、自分でもうまく説明できない。ただ、ここには渡辺美咲がいる。彼女がいるだけで、空...

ログインして続きを読む