第38章 バーでの偶然の出会い

田中康介はドアを乱暴に閉め、足早に外へ出た。

胸の傷がじくじく疼き始める。けれど、そんなものを気にしている余裕はない。

今、頭の中で何度も反芻しているのは、渡辺美咲の――静かすぎる顔だった。

離婚すると告げたとき、彼女の目には何の感情も宿っていなかった。まるで、取るに足らない用事を口にするみたいに。

喧嘩でもいい。泣き叫ばれてもいい。殴られたっていい。

なのに、あの冷めた態度だけはだめだった。胸の奥に火がついているのに、ぶつける先がない。

康介は車に乗り込み、運転席でハンドルを両手で握りしめた。だが、エンジンをかけない。

瞼を閉じ、息を吸って落ち着こうとする。……できるはずがな...

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