第45章 けんか

田中康介は屋敷の使用人を呼びつけ、キッチンへ来るよう命じた。

「健人が味つけが気に入らないと言っている。作り直せ。あいつの好みに合わせて」

 使用人はたちまち困りきった顔になった。

 もともと腕は悪くない。けれど、料理というものは、同じようにおいしく仕上がっても、作る人によってどこか微妙に違ってしまう。

「田中さん、若様がおっしゃる味は、私には出せません」

 使用人は正直にそう言った。

「以前も何度か挑戦しました。ですが若様は、いつも違うとおっしゃるんです。奥様の味じゃないって……」

 そこまで聞いて、田中康介はぎゅっと眉間を寄せた。

「酢豚くらい、なぜ作れない? 作り方なん...

ログインして続きを読む