第53章 野次馬

「康介、今日のことは本当に事故だったの。信じて……」

 渡辺莉々はもう渡辺美咲に食ってかかるのをやめ、今度は田中康介に向かって弱々しく声を落とした。

 一歩近づき、そのままそっと田中康介の袖口をつまむ。

 いかにも傷ついたような顔。だが、それを見た田中康介の胸をよぎったのは、同情ではなく、わずかな苛立ちだった。

 ――こいつ、空気が読めないのか。

 周囲には、もう十分すぎるほど人がいる。誰もが面白半分に様子をうかがっているというのに、まるで舞台役者みたいに、無理やりこの茶番を最後まで演じ切ろうとしている。

 田中康介は眉をひそめ、袖を引かれた手を振りほどこうとした。

 その瞬間...

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