第120章

一ノ瀬蓮は、自分がどれほどとんでもないことをしたのか、まるで気づいていないらしい。私の頬がじわじわ熱を帯びていくのを見て、むしろ笑みをいっそう眩しくした。

「定時だ。一緒に帰ろう」

私は反射的に一歩引き、机上の書類を慌ててまとめる。ごくり、と唾を飲み込んだ。

「……恋人のフリをするって約束はしました。でも、二人きりのときは演技しないって、言いましたよね」

さっきのやり取りなんて、どう見ても熱愛中のカップルだ。しかも「一緒に帰る」だなんて。

「……社長、先に下りませんか?」

口にしてから気づく。社内の人間は、私と一ノ瀬蓮が同居していることを知らない。

これまでは「関係が怪しい」程...

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