第5章

手が震え始めた。今だ。今こそ、自分のために立ち上がり、この状況がどれほどおかしいか、二人にはっきり言ってやれる。残されたわずかな尊厳を胸に、ここを去ることができる瞬間。

しかし、150億円という金額。祐真の事業のトラブル。私たちの愛は何だって乗り越えられると証明するはずだった、あの試練。

これもその一部なのよ、と私は自分に言い聞かせた。震える指でワインボトルに手を伸ばしながら。これは、あなた自身が受け入れたことなのだと。

「もちろんですわ」

私はなんとかそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。桐生美加の椅子のところまでテーブルを回り込む間、ボトルが信じられないほど重く感じられた。...

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