第5章

振り向くと、健一の大学時代の同級生である河合海人先生が、こちらへ千鳥足でやってくるのが見えた。その脳神経外科医は明らかに今夜は飲みすぎたのだろう、頬を赤らめ、足元はおぼつかない。

「河合先生、ずいぶん……ご機嫌ですね」私はこっそりとスマートフォンをしまいながら、慎重に言った。画面にはまだ離婚弁護士のウェブページが開かれたままだったが、今はその時ではない。

「薫さん!」河合先生が大声で呼びかけた。「こんなところで一人かい? 健一はどこだ?」

「彼は他の先生方とお話しされていますわ」私は丁寧に答えた。

「あのワーカホリックが!」河合先生は首を振ると、不意に声を潜めた。「なあ、薫さん。健...

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