第6章

恵理視点

新は出社しない。六年間で初めて、彼は病欠の電話を入れた。正人は何も聞かなかった。

マンションの空気がおかしい。コーヒーを淹れる音も、ページをめくる音もない。誰も聞いていないと思ってリビングから漏れてくる、彼女の鼻歌もない。ただ静寂があるだけ。

彼は書斎に座り、鍵のかかった一番下の引き出しをじっと見つめている。結婚したその日から、ずっと閉ざしたままだ。中には、彼が怖くて口に出せなかったすべてが詰まっている。

最初に出てきたのは、結婚式の写真。三年前の市役所での一枚。彼はロボットのように見え、彼女は白いドレスを着て、無理に笑顔を作っている。見知らぬ二人が、ただふりを...

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