第16章 彼女をいじめた人は伊沢赤司だ

佐野小雪の瞳は期待でいっぱいだった。綾部栞は胸の奥が重く塞がるのを感じながら、小さくうなずく。

「……本当よ」

「もともと政略結婚だもの。愛情なんてない」

「離婚なんて、遅かれ早かれするわ」

できるだけ平静な声を保ったまま言い切り、綾部栞は佐野小雪の病室を出た。

背中が遠ざかるのを見送りながら、佐野小雪は目を細める。瞳の色がすっと沈み、そこには言葉にできない感情が滲んでいた。

綾部栞が病室を出た直後、隣室のほうから慌ただしい足音が響いた。

振り向くと、看護師たちが、隣の病室で入院していた癌の老婆をストレッチャーに乗せて押し出してくるところだった。

高齢のうえ、癌による合併症も...

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