第38章 彼はただの普通の患者の家族

綾部栞が患者の病室から戻ってくると、佐野小雪が慌ただしく入ってきた。

栞はわずかに眉を上げ、手にしていたグラスを置く。静かな目で、佐野小雪を見つめた。

佐野小雪は唇を噛み、綾部栞を見る。

「綾部先生。さっき、赤司さんの奥さんが先生のところへ来ましたよね?」

さっき――。

綾部栞は眉をひそめ、すぐに先ほど病院を出た綾部玉季のことを思い出した。

おそらく玉季は、佐野小雪と鉢合わせたのだろう。そこで何か言ったからこそ、彼女はこんなにも答えを欲しがっている。

立花芳南は面白がるように綾部栞のオフィスの入口にもたれかかっていたが、その問いを聞いた瞬間、ぷっと吹き出した。

佐野小雪の表情...

ログインして続きを読む