第58章 悔しい

赤尾婆様はすでに眠りについていた。それでも佐野小雪は、胸の奥で膨らむ不安をどうしても抑えきれず、病室を出ると、綾部栞のオフィスへ向かって歩き出した。

綾部栞は、ちょうど診察室前で別の患者と話していた。

柔らかな笑み。穏やかな声色。誰にでも親しげで――少なくとも、小雪に向ける態度とはまるで違う。

小雪は深く息を吸い、足を進める。

「綾部先生、少しお話ししたいんです」

綾部栞は静かに小雪を見つめた。瞳は淡く、温度がない。

「佐野嬢。また伊沢社長のことで聞きに来たの? 前にも言ったはず。私は彼とは、別に仲が良いわけじゃない。もう、やめてくれる?」

佐野小雪が「不名誉な立場」であること...

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