第30章 妻かそれとも盾か

宴席も半ばを過ぎた。

霧島絢香は退屈しのぎに甘いスープを口へ運ぶ。

……本当に、疲れた。

席を外して少し空気でも吸おうか――そう思って視線を巡らせた瞬間、見覚えのある影が目に入った。

桜井誠治。

スモークグレーのスーツに身を包み、背筋をすっと伸ばして会場の入口に立っている。穏やかで柔らかな笑みを浮かべ、隣の財界人と小声で言葉を交わしていた。

「誠治さん……?」

立ち上がりかけた、その手首を、いきなり大きな手ががしりと掴んだ。

霧島絢香が顔を向けると、九条雅人の底知れない瞳が真正面から刺さる。

「何だ。俺の目の前で、逢い引きにでも行くつもりか」

霧島絢香は眉をひそめ、同じく...

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