第25章 何を一途ぶっている?

受話器越しの男の声は、低く艶を含んでいた。そこに、ほんのわずかな緊張が紛れているのがわかる。

けれど諏訪詩織の耳には、それがただ滑稽に響いた。

あのとき。林田美月を連れて出ていったときは、彼女の存在なんて一片も思い出さなかったくせに。いまさら、何を一途ぶっているのだろう。

詩織はそっと瞼を閉じ、息を整えてから淡々と言った。

「いま、家に帰る途中」

その直後、廊下から看護師の張り上げる声が聞こえた。

「24番ベッドのご家族の方、会計をお願いいたします!」

胸がきゅっと締まる。

――やっぱり。

電話の向こうで、長谷川遥斗が聞き取ったのだろう。声が跳ね上がった。

「詩織、いま病...

ログインして続きを読む