第52章 彼を裏切る

寝室のドアが、そっと押し開けられた。

諏訪詩織は眉ひとつ動かさない。鏡に映る、広い肩とくびれた腰の男を冷えた目で一瞥し、紅い唇を薄くつり上げる。

「ついてきて、どうするの。後で、またお母さまに言われる。私があなたをたぶらかして、食事も取らせないって」

長谷川遥斗はスーツの上着を脱ぎ捨て、白いシャツのボタンを二つ外したままの胸元を覗かせた。軽薄さが、余計に際立つ。

彼は詩織の背後に立ち、肩に腕を回して、低い声で宥める。

「母さんはああいう性格だ。適当に流せばいい。……それで、俺にまで怒るのか?」

夏物の薄い生地越しに、手のひらの熱が伝わってくる。ぞわり、と胃の奥がひっくり返りそうに...

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