第54章 一目惚れの過去

諏訪詩織はそっと表情を引き締めた。瞳に残っていた迷いが、少しずつ薄れていく。代わりに宿ったのは、揺るぎない決意だった。

牧野徹の言う通りだ。彼女の元々の夢は、優れた服飾デザイナーになることだった。

あの頃、恋に溺れて海外留学のチャンスを捨てていなければ——今ごろ彼女はデザイン業界で頭角を現していたかもしれない。こんな狭い家に閉じ込められるように暮らし、夫の裏切りに心をすり減らすこともなかったはずだ。

人生はまだ長い。最初からやり直したって、何が悪い。

牧野徹を見上げ、諏訪詩織は小さく笑った。

「今夜、デザインシートをあなたに渡す。最終稿が決まったら、1週間以内に既製服を仕上げるわ」...

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