第61章 私の人に手を出すな

諏訪詩織が別荘を出てからというもの、そこは林田美月の「城」になった。

「身体が弱くて、移動はよくないの」――たったそれだけで、彼女は別荘に居座ることを決めたのだ。

朝、林田美月は長谷川遥斗を玄関で見送りながら、まるで奥様のように彼のネクタイを整える。声は甘く、指先はやけに丁寧だった。

「遥斗、夜は帰ってきてくれる? 私と……お腹の子のために。ね?」

長谷川遥斗はその眼差しを受け止めた瞬間、ふと錯覚した。諏訪詩織と結婚したばかりの頃の、あの柔らかな朝の空気。胸の奥が一瞬だけ緩み、口元がほどける。

「……ああ。帰る」

その返事を聞いた林田美月は、ぱっと表情を明るくして背伸びし、彼の頬...

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