第1章 欲望を発散する道具ではない

午前三時、中村七海がぐっすりと眠っていたところ、不意にドアが開く音で目を覚ました。

寝室には、暖色系の小さなナイトライトが一灯だけ点いている。

中村七海は目を細め、窓辺に立ってシャツのボタンを外している男を見つめた。

ぼんやりとした光が、中村健の冷徹で精緻な顔立ちの輪郭をなぞり、その瞳に宿る陰鬱さに、いくらかの柔らかさを添えている。

これは、彼らが一ヶ月にわたる冷戦の末に、初めて顔を合わせた瞬間だった。

中村七海の声は寝起きで、少し掠れていた。「帰ってたの?」

「ん」

中村健は淡々と応じると、その大きな体で覆いかぶさってきた。彼は身をかがめて中村七海の唇を塞ぎ、もう片方の手は慣れた手つきで彼女のシルクのネグリジェを脱がしにかかる。

一瞬呆然とした後、中村七海はすぐにもがき始めた。

「中村健、私たちこんなに長く喧嘩してるのに、帰ってきていきなりこんなことするの?」

彼女の声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。

自分は生身の人間だ。

欲望を吐き出すための道具ではない。

中村健の目に不満の色がよぎり、彼は見下ろすように中村七海の顎を掴んだ。

「お前は俺の妻だ。生理的欲求を解消するのを手伝うのは、合法だろ」

「前の喧嘩、まだ終わってない……」

中村七海の言葉が終わる前に、中村健はすでにその身を挿し入れていた。

前戯のない刺すような痛みが、瞬く間に中村七海を貫き、彼女は思わず身を震わせた。

「中村健、私は道具じゃない。あなた、こういうことがしたいから帰ってきただけなの?」

中村健の目に苛立ちが混じり、彼は中村七海の絶え間ない言葉を唇で直接塞いだ。

五年の夫婦生活は、互いの体と敏感な場所を熟知させていた。

中村七海は、瞬く間に中村健の手の中で抵抗の術を失った。

曖昧な雰囲気が高まっていく中、突如として鳴り響いた着信音は、ひどく耳障りだった。

中村七海の角度からは、着信相手の名前は見えない。

しかし、中村健の目に一瞬よぎった感情は、はっきりと捉えることができた。

中村健はすぐさま動きを止め、左手で電話に出ると同時に、右手で中村七海の口を覆った。

窒息感が襲うと同時に、中村七海は電話の向こうから聞こえてくる甘えた声を聞いた。

「健さん、もう空港に着いたよ。いつ迎えに来てくれるの?」

中村七海の瞳孔が、瞬時に収縮した。

午前三時に、女がこんな甘えた口調で中村健に電話を?

中村健が彼女の口を塞いだのは、明らかに彼女が物音を立てるのを恐れてのことだ。

「わかった、すぐに行く!」

「道中気をつけてね。待ってるから」

その言葉が終わるやいなや、中村健は躊躇なく身を引き抜いて離れた。

中村七海の体内で掻き立てられた火は、まるで真正面から冷水を浴びせられたかのようだった。

彼女は思わず拳を強く握りしめた。

中村健は実のところ、欲望が非常に強い男だ。

毎晩、少なくとも二度は彼女を求めずにはいられない。

睦み合いの最中に、中村健が中断したのはこれが初めてだった。

しかも、一本の女からの電話が原因で。

中村七海の胸に、ちくりとした痛みが走った。

彼女は慌ただしく着替え部屋へ向かう中村健を見つめ、問い詰めた。「どこへ行くの?」

中村健は眉をひそめて彼女を見、目に苛立ちを浮かべた。「俺は、そういうことを詮索されるのが嫌いだ」

その冷たい口調は、先ほどの電話口での優しく甘やかすような声とは鮮やかな対照をなしていた。

中村七海の爪は、無意識のうちに掌に食い込んでいた。彼女は声を平静に保とうと努めた。「あなたのことを心配してるの」

中村健はその言葉には答えなかった。

ドアが乱暴に閉められ、続いて庭から車のエンジン音が聞こえてきた。

中村七海は青ざめた顔でベッドに座っていた。

先ほどの電話の甘い女の声が、ずっと頭の中で反響している。

中村健のプライベートな番号を知る者はほとんどいない。

相手の笑みを含んだ口調は、明らかに彼と親しい関係であることを示していた。

彼を真夜中に外出させるほどなのだから、この女の重要性は言うまでもない。

中村七海はふと、先月、車に追突されたことを思い出した。もしエアバッグとシートベルトがなければ。

彼女はとっくにあの事故で死んでいた。

変形した車からどうにか這い出し、真っ先にしたのは中村健に電話をかけることだった。

死の淵をさまよった直後で、電話を握る手は震えていた。

しかし、相手からの慰めの言葉を待つ代わりに、返ってきたのは中村健のうんざりした声だった。

「保険屋か警察に連絡しろ」

最初から最後まで、怪我はないかと尋ねる、気遣いの言葉一つさえなかった。

中村七海は目の奥にこみ上げる酸っぱい感情を覆い隠し、布団で自分をさなぎのように包んだ。

中村健と過ごした長年の日々が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

彼女は、強く目を閉じた。

翌朝、中村七海が目を覚ました時、無意識に隣の布団の温度を探った。

冷たい。

中村健は一晩帰ってこなかった。

その時、彼女のスマホに突然、一本のエンタメニュース動画が送られてきた。

佐藤奈須からだった。

――佐藤奈須:【あんたの旦那、これって浮気ってやつじゃない?】

中村七海は指でタップして開き、中の内容をはっきりと見た途端、ただでさえ青白かった頬から、さらに血の気が引いた。

映像の背景は空港で、男性主人公はもちろん中村健。彼の隣には小柄な女性がいて、何かを彼に可愛らしく甘えるように話しているようだ。

中村健は片手で彼女のスーツケースを押し、もう片方の手でその女性の手を固く握っていた。

この動画だけを見れば、二人が並ぶ姿は、どこもかしこも曖昧な雰囲気を醸し出しているように見える。

メディアはさらに、衝撃的で目を引く見出しをつけていた。

【中村社長、深夜に見知らぬ女性を空港で出迎え。熱愛発覚か。】

中村七海の心臓は、その瞬間、見えない大きな手にぎゅっと掴まれたようだった。

この女性が、昨日中村健がためらいもなく迎えに行った相手なのだろうか?

彼らは結婚しているが、それは極秘結婚だった。

中村健は対外的にはずっと独身ということになっていた。

だが、自分が結婚しているかどうか、当の本人が知らないはずがあるだろうか?

――中村七海:【たぶん、ただの友達じゃないかな】

――佐藤奈須:【中村七海、あいつがここまでやってるのに、まだ言い訳を探してやるのかよ。お人好しも大概にしろって。いっそあんな奴は捨てて、俺んとこに来いよ】

中村七海の眼差しは苦渋に満ち、目の奥がじんじんと熱くなった。

中村健を、自分が引き止められるとでも?

――中村七海:【この動画、もうバズってる?】

――佐藤奈須:【ああ。今じゃ野次馬どもが、彼女こそが中村家の奥さんだって言ってる。あんなクズ男、持ってても縁起が悪いだけだ】

――中村七海:【わかった】

彼女はスマホを置き、深く長い息を吐き出した。

中村健が何をしたいか、それは彼女が止められることでは決してなかった。

ましてや、中村健はこの女性を格別に気に掛けているのだ。

起き出して簡単に身支度を整えると、中村七海はいつも通り会社へ出勤した。

昨日はプロジェクトの処理で、午前一時までかかった。

さらに中村健のせいで、明け方まで眠れず、どうにかうとうとしただけだった。

今、彼女の頭はぼんやりと重く、混乱している。周りでは、多くの同僚が休憩時間を利用して、例の出迎え動画の噂話に花を咲かせていた。

中村七海はタンブラーを手に、お湯でも注ごうと思った。しかし、一歩踏み出した途端、目の前がぐらりと揺れ、暗闇が瞬時に彼女を飲み込んだ。

再び目覚めた時、そこは病院だった。

中村七海は空気中に漂う濃い薬品の匂いを嗅ぎながら、意識を失う直前の記憶を脳裏に蘇らせた。彼女が懸命に首を巡らせると、傍らに中村健がいるのが見えた。

彼女の目に、一瞬の喜びがよぎった。

「健さん……」

その言葉が落ちるや否や。

中村健はすでに、無表情で彼女を見つめていた。

「離婚しよう」

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