第45章 彼は価値がない

彼の細長い目が微かに細められ、口元には安堵の笑みが浮かんでいた。

「今日は一杯やるべき日だな」

彼はコーヒーカップを持ち上げ、彼女のカップに軽く当てた。その口調は軽やかだった。

「鈴木さん、おめでとう。新たな人生の始まりだ」

新たな人生の始まり!

その言葉が、彼女の脳裏に焼き付き、何度も繰り返される。

私は新たな人生を始めたのだろうか?

「これから、本気で君を口説かせてもらう!」

冗談めかしてそう言ったかと思うと、彼の眼差しはふっと真剣なものに変わった。

「これからは俺が君を大切にする。絶対に、少しだって傷つけさせない」

彼は中村健に告げているのだ。お前が傷つけた女は、今...

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