第65章 ただの服

鈴木七海はため息をつき、自席に戻って仕事の続きに取り掛かった。

中村グループのプロジェクトはすでに完了しており、今は聖生グループの企画書を開いている。

その時、オフィスのドアがノックされた。

鈴木七海が顔を上げると、そこにいたのは山下真衣だった。

彼女は口元を綻ばせ、微笑んだ。「どうして来たの、何か予定でも?」

そう言いながら、彼女はさりげなく企画書を閉じ、傍らに置いた。

「中村社長から、明日のF大学の創立記念祭で着る服を届けるようにと」

明日はF大学の創立記念祭だ。和楓と約束していた。

彼の口ぶりからすると、中村健も参加するのだろう。

F大学は、国内でも一、二を争う名門大...

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