第76章 白痴のような存在

山下真衣は一瞬、呆気に取られた。

どういう意味だ?自分の席に座るというのか?

席を譲ること自体は大したことではない。彼がどこに座ろうと構わない。ただ、ただ、中村健がこちらを見ているのだ。

明らかに、中村社長の視線はどこか冷ややかで、その眼差しに頭皮が痺れるような感覚に陥る。

山下真衣は仕方なく、隣の鈴木七海に視線を向けた。

鈴木七海は手の中のペンをくるくると回しながら、淡々とした口調で言った。「譲ってあげて」

山下真衣の表情がこわばった。

自分の耳がおかしくなったのかと、本気で疑ってしまった。彼女の冗談ではないだろうか、と。

会議は間もなく始まろうとしているのに、中村健の視線...

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