第11章 転任

デザイン部の定例会議室は、息が詰まるような重苦しい空気に包まれていた。

チーフディレクターはスクリーンの前に立ち、一枚の書類を握りしめている。その指先は白く変色し、まるで焼け火箸でも掴んでいるかのようだ。

西園寺希美は窓際の席に座り、ペンを指先で回しながら手元のノートに視線を落としていた。

そこには、彼女が徹夜で仕上げた『スターライト』展示会のランウェイ用最終デザイン案が描かれている。

彼女は気づいていなかった。チーフディレクターの視線が、言いにくそうに何度も彼女の上を彷徨っていることに。

「コホン」

チーフディレクターは咳払いで沈黙を破った。

「本日は、人事異動について発表が...

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