第182章 彼女を行かせて

アマルフィア中部、のどかな田園地帯。

一台のアルファロメオが、うねるような田舎道を疾走していた。

車窓が切り取る景色は、まるで次々と移り変わる油絵のように美しい。

西園寺希美は窓枠に頬杖をつき、流れる風景を眺めていた。胸に去来するのは、久しく忘れていた平穏と安らぎ、そして、どこか現実味のない不思議な感覚だった。

ほんの一時間前まで、彼女は村居大輔らの厳しい監視下で、ブレラ美術学院の展示ホールを歩かされていたのだ。

それが今では、ごく普通の車に揺られ、名の知れぬアマルフィアの田舎道を走っている。

「腹、減ってないか?」

隣に座る橘奏太が身を乗り出し、優しく問いかけた。

西園寺希...

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