第5章 おめでとう、もうすぐ婚約だね

神宮寺蓮が西園寺家を辞した翌日のことだった。神宮寺家の御隠居が、神宮寺家と西園寺家の婚約を一ヶ月後に行うと発表したのは。

このニュースにより、西園寺玲奈は一躍、時の人となった。

彼女は即座に、明日ささやかなパーティーを開くことを決めた。

実態は、ただ自慢したいがための会だ。

「聞いたでしょ? 来月は私と蓮様の婚約披露宴よ。身の程知らずな夢を見るのはおやめなさい。明日はパーティーを開くから、蓮様も呼ぶわ。あんたも手伝いに来なさい」

西園寺玲奈は意気揚々と西園寺希美の前に現れ、彼女の淡い期待を打ち砕こうとした。

西園寺希美は顔も上げずに言った。

「忙しいわ」

「何ですって?」

西園寺玲奈は信じられないという顔で、数歩近づき、彼女を見下ろした。

「西園寺希美、いい加減にしなさい! 相談してるんじゃないのよ」

彼女は顔を近づけ、声を潜めて悪意ある光を目に宿した。

「名家の御曹司や令嬢がみんな来るの。あんたは隅っこで大人しくお茶汲みでもしてなさい。私生児のあんたと私の間に、どれだけの差があるか、全員に見せつけてやるわ」

西園寺希美は笑った。ようやく顔を上げ、何気ない口調で言う。

「いいわ、行く。あなたのお祝いだもの、行かないわけにはいかないわね。お姉ちゃんの晴れ舞台に、妹が欠席なんてできないでしょう?」

その笑顔に西園寺玲奈は薄気味悪さを感じたが、何がおかしいのか分からず、鼻を鳴らした。

「分かればいいのよ」

西園寺玲奈が去って間もなく、西園寺明が西園寺希美を書斎に呼び出した。

男はマホガニーの机の後ろに座り、指に煙草を挟んでいた。紫煙の向こうから向けられる視線には、いつもの嫌悪感がある。

「玲奈の邪魔をするな」

彼は灰を落とし、冷淡に言った。

「西園寺家の祖父が神宮寺家の御隠居を救ったからこそ、今日のこの縁談があるんだ。西園寺家の幸運だ。もしこの話をぶち壊すような真似をしたら、容赦しないぞ」

「何か問題を起こしてみろ。分かっているな、西園寺家に大きな権力はないが、蟻一匹ひねり潰すくらい造作もないことだ」

脅迫。それが西園寺家が彼女に対して使う常套手段だ。

西園寺希美は掌に爪が食い込むほど拳を握りしめたが、表面上は従順に頭を下げた。

「分かっています」

「分かればいい」

西園寺明は汚いものを追っ払うように手を振った。

「出て行け」

屋根裏部屋に戻り、西園寺希美はようやく手を開いた。掌には三日月の形をした爪痕が深く刻まれていた。

窓辺に立ち、眼下の庭で西園寺玲奈と花見美代子がパーティーの飾り付けを選んでいる姿を見下ろす。眼底に冷たい光が走った。

花見美代子は最近ますます増長している。「未来の親戚は神宮寺家だ」という看板を背負い、家の中で威張り散らし、西園寺希美への当たりは強くなる一方だ。

朝食のスープを飲む音が大きいと言い、掃除が下手だと罵る。まるで彼女の存在そのものが不吉であるかのように。

西園寺希美は携帯を取り出し、神宮寺蓮とのトーク画面を開いた。

画面は昨日の会話で止まっている。

彼女は指先を止め、メッセージを打ち込んだ。

『明日の夜七時、いつもの場所で』

わざと時間を七時に設定した。西園寺玲奈のパーティーは八時開始だ。

送信完了の表示が出ると、彼女は画面を見て冷笑した。

西園寺玲奈はパーティーで自慢したいのだろう? なら、そのパーティーに少しスパイスを加えてやろう。

翌日の夕方、西園寺希美は約束の時間よりわざと三十分遅れて神宮寺蓮のプライベートマンションに到着した。

神宮寺蓮はすでに到着しており、ソファで書類に目を通していた。ドアの開く音を聞き、彼は視線を向けた。瞳の色は暗い。

「遅刻だ」

「渋滞してたの」

西園寺希美はバッグを玄関の棚に放り投げ、他人事のように言った。

「おめでとう、神宮寺社長。もうすぐ婚約ね」

神宮寺蓮は書類を置き、立ち上がって彼女の前に来た。

仕立ての良いダークグレーのシャツを着て、袖をまくり上げ、均整の取れた腕を見せている。だがその深い瞳の奥には、抑圧された怒りが渦巻いていた。

「おめでとう?」

彼はその言葉を繰り返し、彼女の顎を掴んで無理やり上を向かせた。

「西園寺希美、お前はそんなに俺が他の女と婚約するのを見たいのか?」

「違うの?」

西園寺希美は彼の視線を受け止めた。

「神宮寺社長は、私が泣いて婚約しないでと懇願すべきだとでも? 神宮寺社長、私たちはとっくに終わってるのよ」

神宮寺蓮を怒らせるべきではないと分かっていたが、彼の涼しい顔を見ていると、腹の底からの怒りを抑えきれなかった。

「言ったはずだ、俺が言うまで終わらせない」

神宮寺蓮の指に力が入り、顎が痛む。

西園寺希美は彼の引き締まった顎のラインを見て、滑稽に思えた。

西園寺玲奈と婚約しようとしているのに、まだ彼女を離そうとしない。これは何だ? 神宮寺家の御隠居を安心させて利益を得つつ、日陰の愛人である彼女もキープしたいということか?

その時、神宮寺蓮の携帯が鳴った。画面には「西園寺玲奈」の名前が表示されている。

神宮寺蓮は眉をひそめ、出なかった。

数秒で切れたが、すぐにまたかかってきた。出るまで諦めないつもりらしい。

神宮寺蓮は不機嫌そうに出た。彼が口を開く前に、西園寺希美が突然手を伸ばし、彼のシャツの襟を軽く引っ張り、わざとらしく、しかし艶めかしい吐息を漏らした。

電話の向こうの西園寺玲奈は明らかにそれを聞きつけ、声が裏返った。

「蓮、どこにいるの? 新しいネクタイを選んだのよ、パーティーの前に試着しに来てくれない?」

神宮寺蓮の顔色が曇った。

「後でする」

「待って!」

西園寺玲奈が焦って叫んだ。

「もうすぐパーティーが始まるのよ、蓮、いつ来るの?」

西園寺希美は神宮寺蓮の顔がどんどん黒くなっていくのを見て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

彼女は神宮寺蓮が気を取られている隙に、テーブルの上の赤ワインのグラスを倒した。

「ガシャーン――」

深紅の液体が飛び散り、神宮寺蓮はすぐに身をかわしたが、数滴がダークグレーのシャツに飛び、目立つ染みを作った。

電話の向こうで西園寺玲奈が問い詰める。声はパニックで甲高くなっている。

「蓮? どうしたの? 何かあった?」

神宮寺蓮はシャツの染みを見つめ、それから無実を装う西園寺希美を見た。眼底の怒りは実体化しそうだった。

彼は電話に向かって冷たく言った。

「何でもない、遅れて行く」

そう言うと、一方的に電話を切った。

「わざとだな」

彼は西園寺希美を見据えた。声は嵐の前の静けさのように低い。

「ええ、わざとよ」

西園寺希美は隠そうともせず、むしろ身を乗り出し、指先で彼のシャツの染みをつつきながらからかうように言った。

「その色、似合ってるわよ」

彼女は彼を見上げ、瞳に狡猾な光を宿した。

「パーティー開始まであと十分もないわ。神宮寺社長、そのシャツ、着替える時間はないんじゃない?」

神宮寺蓮は何も言わず、底知れぬ瞳で彼女を見つめていた。見透かそうとしているかのようだ。

西園寺希美は彼の怒りなど見えないかのように、独り言のように続けた。

「西園寺玲奈のこと、あまり気にしてないみたいね。彼女のパーティーに行く直前に、ワインの染みがついたシャツを着てるなんて」

彼女は小首をかしげ、困ったような表情を作った。

「もし西園寺玲奈にその染みの理由を聞かれたら、どう答えるの?」

「『不注意でこぼした』って言う? それとも『他の女にかけられた』って?」

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