第79章 婚約指輪

「西園寺さん、奇遇ですね」

車内から黒田洋二が笑顔で会釈した。

西園寺希美は拒絶の色を見せないよう、努めて穏やかに微笑み返したが、その視線は吸い寄せられるように後部座席へと向かった。

だが、車内のパーテーションは上がっており、奥の様子を窺うことは一切できない。

希美の隣に立っていた男が、恭しく頭を下げた。

「神宮寺社長ではありませんか? お久しぶりです。今日は北城のプロジェクトでこちらへ?」

探りを入れるようなその言葉に、黒田洋二の笑みがわずかに薄れる。

「まだ、その時機ではありませんので」

それを聞き、男は深く頷いてそれ以上問いただすのをやめた。

黒田洋二は男を見据えたま...

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