第9章

「愛している」と言えなかった柚人は、短い沈黙に陥った。

 だが、彼は諦めなかった。ポケットからベルベットの小箱を取り出し、片膝をつく。

「君の言う通りだ。これは愛ではないのかもしれない」

 彼の声はひどく凪いでいた。

「だが、そんなことはどうでもいい。俺が欲しいのは君だけだ。冬木紅葉、私と結婚してくれ」

 これは懇願などではない。ただの命令。彼に残された最後の支配欲の表れだった。

 彼を見下ろしながら、私の中でどうしようもない滑稽さが込み上げてきた。前世の私は、この光景をどれほど渇望したことか。そのためなら自分自身を壊してもいいとすら思っていたのに。いざ現実になってみると、ただた...

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