第169話

「これ、いいね」と彼が言った。

その一言で、肋骨の裏側を締め付けていたものが、ふっと緩んだ。

それから彼は手首を差し出した。「着けてくれる?」

「ええ」

彼はそれまで着けていた腕時計をぐいっと引きちぎり、ダッシュボードの向こうに放り投げた。

私は新しいストラップを指でつまみ、彼の肌に平らに収まるよう留め具を調整しながら、ゆっくりと留めていく。

彼の肌は白かった。

ストラップはマットな黒。

そのコントラストは鮮やかだった。

私の手は、必要以上にほんの少し長く、そこに留まった。

彼が手首を返す。

秒針が、クリーンで小気味よいリズムを刻んで進んだ。

「気に入った」彼は判定を下すように言った。

「よか...

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