第239話

アシュトンは荒い息をしながらスピーカーボタンを押した。

カシアンのゆっくりとした、眠そうな声が流れてきた。「アシュトン。どうした?」

「俺が結婚する前に、他に好きな女がいたって妻に話したか?」

「は? 何の話だ? 俺がいつそんな――」一瞬の間。カシアンの声に覚醒の色が混じる。「待て。あんたたちがくっつく前の話か?」

「そうだ!」

「ええと、ちょっと思い出させてくれ……。イヴェインがおまえの恋愛事情について一度聞いてきたことがあったな。ずいぶん前のことだ。俺は、おまえが何年も誰かに片思いしてるって言った。秘密にしておけとは言われてなかったから、ただ話しただけだ。それがどうした?」

「その相手がダ...

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