第250話

何かがおかしい。

部屋に入った瞬間、そう直感した。

ミラはソファに丸まってドラマを一気見しているわけでも、ベッドに潜り込んでスマホをいじっているわけでもなかった。

デスクに座り、俺に背を向け、コンピューターをじっと見つめていた。

だが、決定的に違和感を覚えたのは、俺がドアから入ってきたときにキスをしてくれなかったことだ。婚約して以来、それは俺たちの習慣になっていた。

キスをしようと身をかがめる。

彼女は顔をそむけた。

「ワイン臭いわよ。シャワー浴びて、歯も磨いて、寝る準備して。もう遅いんだから」

「二、三杯飲んだだけだ」と俺は認めた。

彼女は、まったく何の意味も持たない曖昧な声を出した。

バス...

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