第290話

コンパクトミラーで最後の身だしなみチェックを済ませると、パチンと閉じてクラッチバッグに滑り込ませた。リップは崩れていないし、髪も言うことを聞いている。一つ深呼吸をして、私は大ホールへと足を踏み入れた。

頭上のシャンデリアが、凍てついた花火のようにきらめいている。グラスの触れ合う音と、会話の波が空気を満たしていた。ここは商工会議所主催のチャリティーディナーで、ゴムのようなステーキ一皿に五桁の「寄付」が必要な類の催しだ。普段なら、適当な言い訳を見つけて欠席していただろう。こういうイベントは嫌いだった。偽りの笑い声、見栄の張り合い、香水と自己顕示欲でむせ返るような空気。

だが、今夜は違った。

リアの...

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