第306話

突き飛ばされた時、驚きはなかった。

驚いたのは、セレンナが馬鹿みたいに強かったことだ。

トレーニングでもしてたのかしら?

そんな場違いな考えが頭をよぎる中、私はぎりぎりで身をかわした。

バランスを崩した彼女の腕は私の横をすり抜け、代わりにナオミを打った。

ナオミがよろめく。上半身が前のめりになり、私がとっさに彼女の肘を掴まなければ、階段を転げ落ちていただろう。

動揺しながらもすぐに立ち直った彼女は、私の助けで体を起こしたが、顔から血の気が引いていた。

「大丈夫?」私の脈拍も一段階上がっていた。

彼女は妊娠しているのだ。

私にとってはただの打撲で済んだかもしれないが、彼女にとっ...

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