第100章 振り返らない

「お、俺はただ、杏奈にお前が昔好きだったものを食べさせてやろうと思って……」

九条司はしどろもどろになりながら、苦しい言い訳をひねり出した。

それを聞いた温井知夏は、唇の端を皮肉っぽく吊り上げる。杏色の瞳には、冷え切った光しかなかった。

「自分がどんなつもりで来たのかくらい、自分でよく分かってるでしょ」

これ以上九条司に付きまとわれないよう、温井知夏は唇をきゅっと結び、はっきりと言い切った。

「無駄なことはもうやめたほうがいいわ。私は絶対に、もうあなたのところへは戻らない」

二人の結婚は、とっくに形だけのものになっていた。

今となっては、かろうじての体面すら保てない。

九条司...

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