第112章 最後の一押し

「知夏……」

黒崎冬馬の声は掠れていた。彼はなおも、彼女に背を向けたままだ。

温井知夏は目を真っ赤にし、唇をきつく噛みしめている。口の中に広がる血の味だけが、かろうじて彼女の理性をつなぎ止めていた。

「熱い……つらい……」

「分かってる」

黒崎冬馬には分かりきっていた。薬が回れば、全身が焼けるように熱を持つ。満たされない渇きが、薬に支配された身体を呑み込み、理性を少しずつ奪っていくことを。

「少し待て。今――」

言い終える前に、女の熱を帯びた身体が、いきなり彼の背にぴたりと貼りついた。

その瞬間、黒崎冬馬の全身がびくりと強張る。

密着した二つの体。

背中に押し当てられる柔...

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