第130章 催眠

その言葉に、温井知夏はぎょっとした。手にしていた赤ワインが少しこぼれ、指先を濡らす。

知夏は眉をひそめ、相手のどこか艶を含んだ要求をきっぱり退けた。

「自分で飲んで」

「そっか」清水三郎は、見てわかるほど落胆した声を落とす。知夏から差し出されたグラスを受け取ると、大きな手がわざと彼女の手の甲をさらりとなぞった。

――触った。

軽くあしらわれたような不快感が、知夏の瞳の奥で一瞬だけ火花を散らす。

けれど、警戒を解かせるためだ。ここで波風は立てられない。

知夏は堪え、何事もなかったふりで自分の果実酒を注ぎ、ゆっくりと口に含んだ。

なのに、横目で見ても三郎はなかなかワインに口をつけ...

ログインして続きを読む